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コラム リーダー電子とMSワラント

以前ご紹介しているリーダー電子は、戦略コンサルティングファーム出身の社長のもとV字回復を成し遂げ、順調に増益を続けています。さらに直近では、戦略的なグローバルM&Aも実行しており、順風満帆に見えますが、現在のPERは8倍程度(時価総額/純利益予測)と低迷しています。

この背景には、M&Aやその後の研究開発資金を担保するために、MSワラントという増資を行ったことがあるといわれていますが、MSワラントというものがなぜ投資家に嫌忌されるのか、そのようなMSワラントをなぜリーダー電子が使うことにしたのか、考察してみようと思います。

なお、本記事を書くに当たっては、大和総研さんのペーパーを参考にいたしました。
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/securities/20190325_020706.pdf

MSワラントとは

MSワラントとは増資の一種で、一定額を調達するにあたって、一度に全ての額を調達するのではなく、複数回に分けて調達する仕組みです。一度に調達するわけではないので、行使価額はその都度、前日の取引価額を参考に決定されますが、終値や平均値をそのまま使うのではなく、そこに5-10%のディスカウントをかけて計算されます。
すなわち、株価が上がっていけば調達額が増え、株価が下がっていけば調達額が減少する仕組みです。

なぜMSワラントが問題視されているかというと、過去にMSワラントを使用した結果、大幅な株価下落を経験した銘柄が複数存在するためです。そこで言われているのは、増資の引受側に当たる証券会社が空売りをし、その翌日に5-10%のディスカウントで調達を行えば、ノーリスクで5-10%のアービトラージができる、そのため空売りの売り圧力によって株価が下落するということです。このようなあからさまなことが本当に行われているのかは定かではありませんが、いずれにせよ増資による希薄化は発生します。

実際の株価下落の例として、6864 エヌエフ回路設計ブロックを見てみましょう。

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2018年の9月27日にMSワラントの発行を決議し、11.8%の希釈化がされることが明らかになりました。しかし最終的に2019年1月までに株価は40%近く下落しました。もちろん、MSワラント以外にもたくさんの要素で株価は決まりますし、ちょうど2019年初頭は日経平均が19,000円を付けたタイミングですが、希薄化以上に株価が下落しました。

一方で株価が上昇して、想定以上に資金が調達できたケースもあります。3697 SHIFTの例を見てみましょう。

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2019年2月28日にMSワラントの発行を決議し、6.8%の希釈化がされることが明らかになりました。権利がすべて行使されたタイミングで、SHIFTの株価は10%上昇していましたが、途中により高い株価のタイミングがあったため、当初想定の48.6億円の調達予定を上回る52億円の調達に成功しました。

このように、必ずしもMSワラント=悪ではなさそうですので、MSワラントについて正しく理解するために、借入と増資の違い、MSワラントと増資の違いについて、それぞれ見ていきます。

借入と増資の株価への影響

借入は銀行から利子付きでお金を調達するため、お金の調達と引き換えに、利子の支払いと自己資本比率の低下が発生します。一方増資は、お金の調達と引き換えに、株数が増え、一株あたり利益の希薄化及び自己株式の価値毀損が起こります。前者は主にファイナンシャルの悪化を通じて株式に影響を与えますし、後者はストレートに1株当たりの株式価値の低下につながります。もちろん、調達した資金の投資によってPERが切りあがるため、最終的にはPERによる株価上昇と、資金調達による株価下落の比較において、株価上昇の方が大きくなることが理想です。

MSワラントと公募増資・第三者割当増資

公募増資や第三者割当増資を行う場合、大きなロットの取引を一度に引き受けてくれる引受手が必要です。そして行使価額は、直近の株価を前提に計算されます。この場合、もし参考となる現在の株価が割安な場合、資金調達側は安売りをすることになります。逆に現時点の株価が割高な場合、引受側は高いリスクを引き受けることになります。すなわち公募増資・第三者割当増資は、資金調達側と引受側が、今の株価水準がある程度適切で、今の株価水準を前提とした取引に合理性があると合意したときに、よいディールとなるということです。そうでない場合は、MSワラントの出番になります。つまり、調達側が今の株価水準は安いと考えているか、引受側が今の株価水準は高いと考えているときに、じゃあ将来の株価水準の変化に対応した調達の形にしましょうねというのがMSワラントだからです。

MSワラントについて、世間で言われるような、空売り⇒調達ということが本当に行われているかは定かではありません。しかし、証券会社も悪評がたてば長期のビジネスに影響しますので、そのあたりはうまくやると思います。また仮にアービトラージを狙うのであれば、株価が高い方が5-10%の絶対額が大きくなりますので、その点からもあえて株価を意図的に下げるような動き方はしないのではないかと思います。

なぜリーダー電子はMSワラントを使ったのか

それでは、なぜリーダー電子はMSワラントを使ったのでしょうか。各資金調達の特徴を踏まえると、株主の観点からは、借入>MSワラント>公募増資・第三者割当増資、となると思います。

リーダー電子の自己資本比率は直近で80%弱あり、仮に7.5億円をデットで調達したとしても、60%以上はキープできます。そうなると、①借入金利が高く企業価値を毀損するレベルだった、②借入により格付けが下がり企業価値を毀損する可能性があった、③何らかの政治的理由があった、のいずれかかと思います。

①②は書いてある通りですが、リーダー電子はまだ赤字を脱して数年ですので、銀行が提示した条件がかなり悪かったという可能性はあると思います。③はM&Aの意思決定プロセスで何かの政治的な妥協があったのでは、ということです。コンサルティングファーム出身の社長がいるとはいえ、取締役会には古くからの従業員もいます。その中で、外国の企業をM&Aするだけでもリスクがあるのに、それを借り入れというコストが発生する方法でやるのはダメだ、という議論になり、それでも最終的には株式の価値向上になるだろうということで、MSワラントという手段を取ったのではと推察されます。

いずれも推察の域を出ませんが、このケースでは必ずしもMSワラント=株主利益を無視した、とは言えないと思います。一方で、多くの人がそう思っている以上、株価の推移にはそうした思惑が付きまとうことは必ず意識する必要があると思います。

なお、リーダー電子に関連する書籍はこちらがおすすめです。
クロスボーダーM&A関連の2冊と、社長の長尾さんが出身であるコーポレートディレクションのOBの書籍です。

以上、リーダー電子とMSワラントに関するコラムでした。

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